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2020-05

Al Jarreau 「This Time」

Al Jarreau 「This Time」■ アルバムデータ
タイトル:This Time
アーティスト:Al Jarreau
リリース:1980年
レーベル:Warner Bros. Records

アルバム総評価:98 点
crown01《名音堂 Gold Disc 認定》


■ 曲目リスト
  №  曲          名評      価  MV  
01  Never Givin' Up  ★★★★★  youtube02
02  Gimme What You Got★★★★★youtube02
03  Love Is Real★★★★★youtube02
04  Alonzo★★★★★youtube02
05  (If I Could Only) Change Your Mind        ★★★★★youtube02
06  Spain (I Can Recall)★★★★★youtube02
07  Distracted★★★★☆youtube02
08  Your Sweet Love★★★★★youtube02
09  (A Rhyme) This Time★★★★★youtube02


■ 講評
今回紹介するアルバム「This Time」は、アメリカのジャズヴォーカリストである Al Jarreau が1980年に Warner Bros. Records からリリースした4thスタジオアルバムである。

このアルバムから、George Benson や The Manhattan Transfer など主にポップスやフュージョン系のミュージシャンのプロデュースで名を馳せた名音楽プロデューサーである Jay Graydon が7thアルバム「High Crime」まで4作連続でプロデュースを担当している。

「This Time」は、従来の Al Jarreau のアルバムとは異なり革新的で独創的なアレンジが特徴的で、Al Jarreau のサウンドをより R&B 志向のサウンドへと転換する契機となったが、これはバックミュージシャンの選択を含めプロデューサーである Jay Graydon の手腕によるところが大きいと考えられる。

アルバム制作陣を見ると、ホーンアレンジには Michael Jackson の「Thriller」や「BAD」のホーンアレンジを担当したことでも知られる Jerry Hey(#1,#3,#7)が、リズムアレンジには Al Jarreau(#1-4,#7-9)、ジャズ・フュージョン界の名ギタリスト Earl Klugh (#9)、キーボード奏者として名を馳せた Tom Canning(#1.#2,#5,#8)が参加している。

またバックミュージシャンの顔ぶれも豪華で、Jay Graydon とAirplay でコンビを組んだお馴染みの David Foster(additional piano(#2), Fender Rhodes piano(#9))、ピアニストでコンポーザーである George Duke(Fender Rhodes piano(#7))、ギタリストの Dean Parks(electric guitar(#3,#5))、アメリカの雑誌「Guitar Player」で「我々の世代で最も幅広く活躍するセッションベーシスト」と評された Abraham Laboriel(bass)などが参加している。

こうした豪華布陣によるサウンドメイキングにより、「This Time」はそれ以前の作品に比べて音楽チャートの主流に乗る成功を収めるとともに、Jazz Albums Charts においても第1位を獲得。また Billboard R&B Albums charts 第6位、the Billboard 200 第27位を記録するなどセールス的にも成功を収めることとなった。

このように「This Time」は、Al Jarreau が Billboard の Hot 200 TOP40 入りと the R&B charts TOP10 入りを果たした最初の作品となるとともに、Jazz Albums Charts において初めて第1位を獲得した記念すべき作品となった。

この勢いを受けて、次作である5thアルバム「Breakin' Away」も「This Time」以上にヒットし、「This Time」同様に Jazz Albums Charts において第1位を獲得している。

▼「This Time」ジャケット
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▼「This Time」ジャケット裏面
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▼「This Time」インナーシート
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アルバムからは1980年に「Never Givin' Up」、「Distracted」、「Gimme What You Got」の3曲がシングルリリースされており、「Never Givin' Up」は The Billboard R&B Singles Chart 第26位を、「Distracted」は第61位を、「Gimme What You Got」は第63位を記録している。

また「Never Givin' Up」は、1981年 Best Male R&B Vocal Performance 部門でグラミー賞にもノミネートされたが、これは Al Jarreau にとって R&B 分野での初めてのノミネートとなった。残念ながら受賞は逃したが、この時のグラミー賞受賞者は、当時 Al Jarreau と同様にサウンド面での変化期にあった同じ Warner Bros. レーベル仲間である George Benson で、受賞対象曲は「Give Me the Night」であった。

▼「Never Givin' Up」
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▼「Distracted」
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収録曲の「Spain (I Can Recall)」と「(A Rhyme) This Time」の2曲は、ジャズ・フュージョンのインストゥルメンタルの名曲に歌詞を付けてカヴァーした楽曲である。

このうち「Spain (I Can Recall)」の原曲「Spain」は、ジャズピアニスト・作曲家である Chick Corea によりジャズ・フュージョンのインストゥルメンタル曲として1971年に作曲され、Chick Corea 率いる Return to Forever が1973年にリリースしたアルバム「Light as a Feather」に収録されている楽曲である。Chick Corea の作品の中でも最も認められた作品として、またモダンジャズのスタンダードナンバーとしても知られる名曲として、数多くのミュージシャンにカヴァーされており、「Spain (I Can Recall)」はこの「Spain」に新たに Al Jarreau と Artie Maren が歌詞を加えてカヴァーしたものである。

▼「Light as a Feather」 by Return to Forever
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一方の「(A Rhyme) This Time」の原曲「This Time」は、ジャズ・フュージョン界のギタリスト Earl Klugh が1977年にリリースした3rdアルバム「Finger Paintings」に収録されているインストゥルメンタル曲で、同じくジャズ・フュージョンのギタリストである Lee Ritenour が12弦ギターで演奏に参加したことでも知られるこちらもジャズ・フュージョンの名曲である。「(A Rhyme) This Time」もこの「This Time」に新たに Al Jarreau が歌詞を加えてカヴァーしたものであり、レコーディングには Earl Klugh 本人も Acoustic Guitar(Gut-string)で参加している。

▼「Finger Paintings」by Earl Klugh
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ちなみにアルバムジャケットのポートレートは、ファッション雑誌「VOGUE」のスタッフ・フォトグラファーや Gianni Versace の広告キャンペーンフォトグラファーとしても活躍したアメリカのファッション・アートフォトグラファーである故 Richard Avedon の作品である。

また日本リリース盤の帯には「ポップでファッショナブルなセンスで愛を奏でるアル・ジャロウ。やわらかなモノトーンに溢れ出る瞳の輝きが心を弛がす……。」と記されていた。

▼ Al Jarreau
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Al Jarreau のアルバムのうち名音楽プロデューサーとして知られる Jay Graydon がプロデュースした作品は、今回紹介した4thアルバム「This Time」を皮切りに 5th「Breakin' Away」、6th「Jarreau」、7th「High Crime」の計4枚あるが、その第一弾である「This Time」が元来ジャズヴォーカリストであった Al Jarreau のサウンドに新機軸を与えるきっかけとなったことに疑いの余地はないだろう。

後年ジャズ志向を強める Al Jarreau のディスコグラフィーの中でも、個人的にはこの Jay Graydon プロデュースの4作品こそが彼のベストワークであると思っている。

このうち前回このブログでも紹介した「Jarreau」は、Jay Graydon のプロデュース色が強く、スキャットを始めとした「人間楽器」とも言われる個性的な歌唱テクニックが影を潜めて Al Jarreau らしさが希薄になってしまった印象を受けたが、今回紹介する「This Time」では、Al Jarreau お得意のスキャットがそこかしこに取り入れられており、サウンドメイキングにおいても Jay Graydon 色は比較的控えめで Al Jarreau らしさが前面に出たアルバムとなっている。

特に収録曲である「Never Givin' Up」や「Alonzo」で存分に披露されるリズミカルなメロディをすべるように滑らかにしかも確実に刻むヴォーカルテクニックは、真似ることさえ困難な、まさに Al Jarreau の独擅場である。

一方で、こうしたスキャットなどのヴォーカルテクニックには欠かせない Al Jarreau の「オイリーでセクシーな声質」は、個性的であるがゆえに好き嫌いが分かれるところでもある。時折生理的に受け付けないといった声も聞かれるほど特徴的な声質は、Al Jarreau にとってまさに諸刃の剣と言えるかもしれない。かく言う私も最初はあまり好みではなかったが、聴き込むうちにハマッたリスナーの一人である。

ただそうした一部の厳しい声を払拭するぐらい「This Time」はハートフルなブラックコンテンポラリーミュージックが満載で、R&B の中にもポップテイスト溢れる非常に爽やかで聴きやすいアルバムに仕上がっており、Al Jarreau の歌声に抵抗感があるリスナーでも心地良く聴くことができるのではないだろうか。

▼ Al Jarreau
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特に楽曲の途中で曲調が大きく変わるスタイルが印象的な「Spain (I Can Recall)」と「Love Is Real」は、静から動、リズミカルからメロディアスへの転換が実に巧みで意外性があり、まさにアレンジテクニックの妙と言える楽曲である。

また、このアルバムのリード曲である「Never Givin' Up」や「Gimme What You Got」、「Love Is Real」など聴き応えのあるキャッチーなポップメロディチューンは、いずれもヒット性が高く、アルバム全体のイメージを決定付ける上で大きな効果を発揮しており、こうした新たな方向性がアルバムのセールス上も吉と出たようだ。

このように「This Time」でメロウでポップテイストな R&B 路線を確立できたことで、続く5thアルバム「Breakin' Away」も本作以上にヒットすることになり、結果的に Al Jarreau はこのアルバムをきっかけとして4作連続で Jay Graydon にプロデュースを任せることになるわけであるが、そうした事実からも Al Jarreau が Jay Graydon に多大なる信頼を寄せていたことが窺えよう。

なお、「This Time」は Jay Graydon 色が控えめであると申し上げたが、アルバムの端々に Jay Graydon のギタープレイや David Foster のキーボードプレイがちょこちょこと顔を出してさりげなく且つしっかりと主張しているあたりに、Jay Graydon のプロデューサーとしての茶目っ気と玄人的な手腕が感じられて実に興味深い。

「This Time」は派手さはないが非常に上品で、Al Jarreau らしい陽気で心躍るようなキャッチーなリズム曲やハートフルで憂いに満ちた上質なバラッドがラインナップされており、Al Jarreau を初めて聴く方にぜひお薦めしたいアルバムである。

▼ Al Jarreau
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■ アルバムリリースノート
本作は、“天才”シンガー、アル・ジャロウが1980年に録音したアルバム。ジェイ・グレイドンのプロデュースにより、緻密なサウンドと圧倒的な歌唱力が合体した画期的名作。チック・コリア「スペイン」のカヴァー他を収録。- Amazon

ジェイ・グレイドンのプロデュースにより、アダルト・コンテンポラリー路線へ向かった5thアルバム。大ヒット曲「スペイン」を収録し、ポップス・リスナーを魅了した大傑作。- Amazon

ソフトで伸びやかな歌声と、「スキャット唱法」等卓越したヴォーカル・テクニックを持ち個性を確立したアル・ジャロウの、1980年発売の5枚目のアルバム。ジェイ・グレイドンのプロデュースにより、アダルト・コンテンポラリー路線へ向かった作品。大ヒット曲「スペイン」を収録し、ポップス・リスナーを魅了した大傑作。- Amazon

▼ Al Jarreau
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*この記事は、クリエイティブ・コモンズ・表示・継承ライセンス3.0のもとで公表されたWikipediaの項目「This Time (Al Jarreau album)」を素材として二次利用しています。


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Author:香山蔵之介
名古屋音楽堂本舗の店主香山蔵之介による音楽講評です。
Life is music. Music is life.
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